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抱くと重くなる — 子泣き爺と、阿波の山に響く赤ん坊の声

子泣き爺のいちばんの面白さは、「見た目」と「声」がまったく合っていないところにあります。山の奥から聞こえてくるのは赤ん坊の泣き声。ところが、そこにいるのはおじいさん。この食いちがいこそが、子泣き爺という妖怪の正体だといってもいいかもしれません。
姿は老人、声は赤ん坊
子泣き爺は、徳島県の山あいに伝わる妖怪です。民俗学者の柳田國男が、各地の妖怪の名前を集めたなかに、阿波(いまの徳島県)の山の話として書きとめています。
伝わっている話は、とても短いものです。山の奥にいて、姿はおじいさんだけれど、赤ん坊のような声で泣く。気の毒に思った人が抱き上げると、急に重くなって、しがみついたまま離れなくなる。服の色や背丈など、くわしい姿はほとんど語られていません。
それでも、この短い話には、人の心をつかむしかけがあります。赤ん坊の泣き声を聞いたら、たいていの人は放っておけません。その「助けたい」という気持ちこそが、子泣き爺に近づいてしまう入り口になっているのです。
「抱くと重くなる」話は、ほかにもある
抱いたもの、背負ったものがだんだん重くなる。この不思議は、子泣き爺だけのものではありません。
よく知られているのが、産女(うぶめ)の言い伝えです。産女は、夜道で通りかかった人に「この子を抱いてやってください」と赤ん坊を預けるといわれる妖怪です。抱いていると赤ん坊はどんどん重くなっていきますが、それをこらえて抱き通した人は、大きな力を授かった――そんな話が各地に残っています。
また、夜道で背中に負ぶさってきて、歩くほどに重くなっていく妖怪の話も、あちこちで語られてきました。
重さは、目に見えなくても、体ではっきり感じられるものです。腕や背中にずしりとくる感覚は、暗い山道や夜道の心細さと、どこか似ています。「重くなる」という語り方には、そうした感覚がこめられているのかもしれません。
阿波の山あいと、子泣き爺の伝承地
徳島県は、化け狸の話がとても多い土地としても知られています。山も深く、谷あいに小さな集落が点在する阿波の山あいは、ふしぎな話が生まれ、語りつがれてきた場所でした。
子泣き爺の伝承地としては、徳島県三好市の山城町(やましろちょう)の山あいが知られています。ピクセル妖怪の妖怪マップでも、子泣き爺は徳島の山の中に顔を出しています。
山の中で泣き声が聞こえたら
いまでは子泣き爺というと、漫画やアニメに出てくる姿を思いうかべる人も多いでしょう。けれど、言い伝えのなかの子泣き爺は、ほとんど「声」と「重さ」だけでできた妖怪です。
ピクセル妖怪の図鑑の子泣き爺のページでは、言い伝えにある「抱き上げる」場面から考えて、おくるみにくるまれた赤ん坊のように見えて、顔だけはしわだらけのおじいさん、という姿で描いてみました。大きな口をあけて泣き、おくるみのすきまから小さな手でしがみついているところです。
山の奥で、赤ん坊の声がしたら。抱き上げる前に、ちょっとだけ顔をのぞいてみてください。