◀ よみもの一覧へ ピクセル妖怪

STORIES

海坊主はなぜ「坊主」なのか — 夜の海にうかぶ、まるくて大きな影

海坊主海の妖怪入道

海坊主

海坊主の名前は、よく考えるとふしぎです。海にあらわれる大きな妖怪なのに、呼び名は「坊主」、つまりお坊さん。もちろん、お坊さんが海から出てくる話ではありません。この名前には、昔の人が夜の海で見た「何か」の形が、そのまま映っているようです。

「坊主」は、まるい頭のこと

「坊主」はもともとお寺のお坊さんを指す言葉ですが、髪をそったまるい頭のことも「坊主頭」といいます。海坊主の言い伝えで語られるのも、たいていは毛のない、黒くてまるい頭です。手や足のことはあまり語られず、顔つきもはっきりしないことが多いといわれています。

つまり海坊主は、「まるくて大きなものが、海からぬっと出てきた」という形そのものに名前がついた妖怪だといえそうです。輪郭はまるい。でも、細かいところは見えない。夜の海で見たものを人に話すとき、「坊主のような頭だった」というたとえは、きっといちばん伝わりやすかったのでしょう。

大きな坊主の仲間たち

日本の妖怪には、まるい頭の大きな者がたくさんいます。見上げるほど大きな「大入道」や、見ているうちにどんどん背が伸びていく「見越し入道」なども、坊主や入道の姿で語られてきました。入道とは、もともと仏の道に入った人、つまり髪をそった人のことです。

海坊主が土地によって「海入道」とも呼ばれるのは、こうした大きな坊主の仲間のひとりとして、海に出るものだと考えられていたからかもしれません。陸の大入道が夜道で人の前に立ちはだかるように、海の坊主は、船の行く手にぬっと立ちあがります。

夜の海で、人は何を見たのか

海坊主の正体については、いろいろな見方があります。急に大きくもりあがった波のうねり、霧の中にうかぶ岩や島かげ、海面に背を出したクジラ。暗い海の上では、ものの大きさや距離がつかみにくく、見なれたものでも思いがけない姿に見えることがあります。

もちろん、どれが正体だと決まっているわけではありません。それに、海坊主の話を語りついできた漁師や船乗りにとって大事だったのは、見まちがいかどうかよりも、「海の上では何が起きてもおかしくない」という感覚のほうだったように思えます。

「板子一枚下は地獄」

船乗りの仕事の危うさを表すことばに、「板子一枚下は地獄」というものがあります。船底の板一枚をへだてた下は、深い海。そこに落ちれば助からない、という意味です。

天気が急にかわる海で働く人たちにとって、静かな海がとつぜんもりあがり、大きな黒い影があらわれるという話は、ひとごとではなかったはずです。海坊主の言い伝えには、海をあなどってはいけない、無理をして船を出してはいけない、という戒めとして語られてきた面もあるのでしょう。出会った船がどうなったかという言い伝えは、図鑑の海坊主のページで紹介しています。西日本の海辺には、牛鬼のように、夜の浜にあらわれる妖怪の話も伝わっています。

黒いけれど、真っ黒ではない

ピクセル妖怪では、海坊主を白い背景の上に、深い藍色の大きな頭として描きました。真っ黒にしなかったのは、夜の海で見る影が、まったくの黒ではなく、海や空の色がまじった暗い色に見えるからです。頭のてっぺんには、つるりとした光を少しだけ。足もとの小さな舟とくらべて、その大きさを感じてもらえたらうれしいです。