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小豆洗いの音の正体さがし — 川辺の「しょきしょき」はだれのしわざ?

小豆洗いは、姿よりも「音」で知られる妖怪です。川のほとりで聞こえてくる、しょきしょきという、小豆をとぐような音。昔の人はその音を聞いて、いったいだれが立てているのかを、あれこれと考えてきました。今回は、小豆洗いの「音の正体さがし」をしてみます。
「小豆をとぐ音」は、暮らしの音だった
あんこやお赤飯をつくるとき、まずは乾いた小豆を水で洗います。ざるや桶に入れた小豆を手でかきまわすと、豆どうしがこすれあって、しゃきしゃき、しょきしょきと、小さく乾いた音がします。
川や井戸のそばで洗いものをするのが当たり前だったころ、この音は暮らしのなかでよく耳にする音でした。だからこそ、だれもいないはずの夜の川辺でその音がすると、人はすぐに「小豆を洗っている音だ」と思ったのでしょう。聞きなれた音が、聞こえるはずのない場所から聞こえてくる。小豆洗いのこわさは、そこにあるのかもしれません。
名前は、聞こえた音のまま
小豆洗いには、土地ごとにいくつもの呼び名があるといわれています。「小豆とぎ」「小豆さらさら」など、どれも音そのものを名前にしたようなものばかりです。
同じ音でも、「しょきしょき」と聞く人もいれば、「さらさら」と聞く人もいる。いまの私たちが、雨の音や虫の声をいろいろな言葉で表すのと同じです。姿の言い伝えが少ないぶん、小豆洗いの名前には、その土地の人の「耳」が残っているといえそうです。
昔の人の推理 — 狐、狸、カワウソ
では、音の主はだれなのか。言い伝えのなかには、その正体を名ざしているものもあります。狐や狸、ムジナ、カワウソなど、人を化かすといわれた動物のしわざだとする話が、各地に残っているといわれています。
なかでもカワウソは、かつては日本の各地の川に暮らしていた動物で、人を化かすという言い伝えも多く伝わっています。夜の川辺の物音を、川に住む身近な動物と結びつけるのは、昔の人にとって自然な推理だったのでしょう。「妖怪のしわざ」と「動物のしわざ」は、昔の人のなかで、それほど遠いものではなかったのです。
虫の名前になった「アズキアライ」
もうひとつ、おもしろい話があります。障子などにとまって、かすかな音を立てる小さな虫「チャタテムシ」には、「アズキアライ」という別名もあるといわれています。しんとした部屋で聞こえる、さらさらという小さな音を、小豆を洗う音に聞きたてたのでしょう。
川辺の妖怪の名前が、家の中の小さな虫の呼び名にもなっている。「小豆を洗う音」は、昔の人にとって、正体のわからない小さな物音をたとえるときの、ものさしのような音だったのかもしれません。
なぜ「小豆」だったのか
最後に、なぜ米や大豆ではなく小豆なのか。はっきりした答えは伝わっていません。ただ、小豆はお赤飯や、小正月に食べる小豆粥など、お祝いや節目の日に欠かせない食べ物でした。その赤い色には悪いものをはらう力がある、と考えられてきたともいわれます。
ふだんの食事とは少しちがう、特別な日の豆。その豆を、だれもいない川辺でとぐ音がする。そう考えると、ただの物音の話にも、ちょっとした神秘がまとわりついて見えてきます。
姿の見えない妖怪には、神社の森で砂をまく砂かけ婆などの仲間もいます。小豆洗いの言い伝えそのものは、図鑑の小豆洗いのページにまとめました。川べりを歩くときは、水音のなかに、しょきしょきという音がまじっていないか、そっと耳をすませてみてください。