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ぬらりひょんはいつ「総大将」になった? — 説明のない古い絵と、あとから生まれた性格

ぬらりひょんといえば「妖怪の総大将」。そう聞いてうなずく人は多いと思います。ところが、江戸時代の古い絵をたどってみると、ぬらりひょんが妖怪たちを率いていたと書かれたものは見当たりません。古い絵のぬらりひょんは、ほとんどなにも語らない妖怪でした。いま知られている性格は、あとの時代に少しずつ書き足されていったものなのです。
古い絵のぬらりひょんは、なにも語らない
江戸時代には、妖怪の姿を一体ずつ描き並べた絵巻がつくられました。絵師・佐脇嵩之の『百怪図巻』もそのひとつで、ぬらりひょんの姿が描かれています。こうした絵巻では、それぞれの妖怪に名前が添えられているくらいで、どこに出るのか、なにをするのかといった説明はほとんどありません。
鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にも、ぬらりひょんは登場します。こちらも、絵に添えられた説明はほとんどありません。描かれているのは、頭の後ろが大きく張り出した、着物姿の老人。ふしぎな頭の形は目を引きますが、それ以上のことは、絵からはわかりません。石燕と『画図百鬼夜行』については、鳥山石燕の記事でくわしく紹介しています。
「ぬらり」と「ひょん」— 名前から生まれた想像
説明のない妖怪にとって、名前は数少ない手がかりです。「ぬらり」は、ぬらりくらりと、つかまえようとしてもするりと逃げていく様子。「ひょん」は、「ひょんなことから」というように、思いがけないこと、妙なことをあらわす言葉です。ぬらりひょんの名前は、こうした言葉から来ているのでは、といわれています。
つかみどころがなく、思いがけないところにふいに現れる者。名前のひびきだけで、そんな人物像がなんとなく浮かんできます。ぬらりひょんの性格は、まずこの名前から想像されていったと考えられます。
「総大将」は、いつから?
近代に入り、とくに昭和の時代になると、妖怪を紹介する本がつぎつぎと出されるようになります。そのなかで、古い絵に名前しかなかった妖怪たちにも、説明が書き添えられていきました。ぬらりひょんにも、妖怪の親玉のような存在だという説明や、忙しい夕方にいつのまにか家に上がりこんでくつろいでいる、といった説明がつけられるようになります。
こうした説明は、のちに子ども向けの妖怪図鑑や、漫画、アニメなどにも受けつがれ、「妖怪の総大将・ぬらりひょん」のイメージは全国に広がっていきました。ここで大事なのは、これらが、村々で古くから語りつがれてきた言い伝えとは別のものだという点です。ぬらりひょんについては、各地で集められた民間の言い伝えはほとんど見当たらない、といわれています。
説明がないから、想像がふくらむ
では、いまのぬらりひょんは「にせもの」なのでしょうか。そうとはいえません。妖怪は、絵と名前をもとに、時代ごとの人々が想像を重ねて育ててきたものでもあるからです。石燕自身も、言葉遊びから新しい妖怪を描いたといわれています。名前に言葉遊びがひそむ毛羽毛現も、そうした例のひとつと考えられています。
大切なのは、どこまでが古い絵に描かれたことで、どこからがあとの時代の想像なのかを、分けて楽しむことです。ぬらりひょんの姿は図鑑のぬらりひょんのページで。古い絵の老人がなにを考えていたのか、あなたなりの物語を想像してみるのも、妖怪の楽しみ方のひとつです。